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74話 幸せな世界

Penulis: ニゲル
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-14 11:10:55

「今から配信で記録された映像を見せる……キツくなったらすぐに目を逸らしてくれ」

手負いのメサとライをなんとか退けた翌日。自分と桐崎と生人は呼び出されて桐崎家の彼女の部屋に集まっていた。

「そんな……波風……」

キュアリンとリンカルだけが持っているという配信の記録映像にはゼリルの顔が死んだ高嶺の父親と一緒だということ、そして胸を貫かれ絶命し海に放り捨てられる海原の姿が映っていた。

「うっぷ……!!」

心臓が握り潰される様を見て吐きそうになるが、なんとか堪えて喉元まで来た吐瀉物を飲み込む。酸っぱい味が口に染み込み、映像の光景もあって気分は最悪になる。

「そんな……こんなことありえない」

桐崎は全身から力が抜けたようにその場にへたり込んでしまう。キュアリンも動揺を露わにしていて配信を途中で切り表情を強張らせる。

「またか……」

事前に知っていたためか生人だけはどこか達観した様子で、冷静ながらも悲しげな顔をする。

「なぁ生人……天空寺はその後どうなったんだ?」

「分からない。テレパシーにも出ないし、一応昨日鳥に家を見させたけど家ではちゃんと寝てたらしい。行こうと思ったけど……なんて言葉をかけたらいいか……」

「クソ……とにかくアタイはあいつの様子を見てくる!!」

「ごめん……イクテュスの方はボクで警戒しておくから……そっちはお願い」

悲しさに悔しさに怒り。どう表現したらいいか分からず生人はもう喋らなくなったしまう。桐崎も今は動ける状態ではない。アタイだけで部屋を飛び出し天空寺の家まで走って向かう。

(もしかしたらあの角の向こうにイクテュスが……)

あんな映像を見た直後のせいかもしもの不安に神経が削られ、自然と手がブローチへと伸びていた。

「ちっ……!!」

自分の中にある恐怖心を押し殺し、ブローチから手を離す。それでも自然と速度を上げて目的地へと向かってしまう。

(また……失ったのか?)

アタイは翠が死にキュアヒーローの力を呪っていた。そんな時天空寺に救われ、あの二人の仲の良さを自分と翠の姿に重ねて見ていた。二人には無事でいてほしかった。守りたかった。昨日風呂場で桐崎と話したように。

だからこそ桐崎のあの精神の疲弊具合も痛いほど分かるし、アタイも気がおかしくなりそうだ。

「くそ……くそ!!」

守れなかった
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